Strange Utopia

素晴らしい記憶と思いは、放っておくと日々の生活によって忘却の彼方へ消えてしまう。何か形に残しておかないと、本当に消えてしまう。つまりこれは日記です。

Strange Utopia (abandon)

昔よく通い詰めた場所がある。1年と少し前から、そこには行っていない。そこには陽気な音楽があって、うまい酒があって、心を裸して付き合える仲間達がいた。アルコールとニコチンと汗の臭い、行き場の無い鬱屈と退屈に火を点けた時に燻ぶる、享楽的な火薬の臭い。そういうものが龍のように唸りを上げて、地面からどこか遠くへ噴き出して行く時、僕らはそれぞれにカタルシスを感じる。そこは、暗くて煙たい奇妙なユートピアのような場所だった。あの頃は帰る家が無かった。そこが依る縋だった。でも、今の自分には帰る家がある。だからそこには行かなくなった。

僕は久しぶりにそこへ行った。そこに集まるストレンジャー達を見るや、懐かしい感覚が蘇った。あの日、脳の奥深くの引き出しに仕舞い込んだ、穴の無い傷が言った。やぁ、ヘヴン!ご無沙汰!今日ぐらいは飛べるように、くだらない脳を捨てよう。

聴き慣れた音楽に、心が躍った。身体はふわりと浮きあがるように軽くなった。どこかに飛んで行けるような気がした。傷を封じ込めていた重い蓋はフッと無くなった。久しぶりの解き放たれた幽鬼のような暗いエネルギーがふわりと浮かび上がった。それは知らぬ間に、昔とは違う種類の仄暗い翳を纏っていた。大きな火傷の跡がケロイド状になって皮膚に残るように、帰る家があっても、穴が塞がっていても、傷は傷だった。過去の痛みに火を点けて、喜びには羽根を付けて、遠くに投げ飛ばした。浮き上がりそうな身体で歌って踊った。そのうち、頭の中で何かがプツンと切れて無くなる音がした。意識はどこかに飛んで行って、身体だけが勝手に反応する。程良く過去の想いに浸りながら、どこに依るでもなく、白昼夢か根無し草のように、ゆらゆらと浮かぶような気分で、歌って踊って騒いでる。この時間が、明日のしがらみも昨日の痛みも何も無い、今この時間が、永遠に続けばいいと思った。

言葉では言い尽くせない爽やかな余韻が、心と身体を満たす。それを夜の涼しい風が心地良く撫でつけた。ステージは終わりを素通りして、演者はいつまでも踊り続ける。そういう夢を見ている。いつまでも、いつまでも、その時間が続くようにと、ぼんやりと夢見ている。しがらみの明日は来なくていいと薄く願いながら、夢を見る。火照った身体を冷たく撫でる、夜風のような余韻。

あのリフレインはずっと溢れてるけれど、もう熱はない。冷えた空気の中でクリアになった感覚が、昨日の余韻の輪郭をどこまでも鮮明に浮き上がらせる。帰る家があって、待っている人がいる。天国はきっとそっちだ。いや、帰る家、待っている人がいる空間、ストレンジャーが集う場所、全部地続きの同じ世界で、その全てが天国だと思う。穴の無い傷は、姿を変えて、いつか消えるだろうか。いつか消えて、また新しい傷が浮かび上がるのだろうか。